有利な「現況有姿」での引き渡し
01 「現況有姿」の有効な用い方
中古マンションには、インターホン・給湯パネル・床暖房・ウォシュレット・シャンプードレッサーなど細々した付帯設備が沢山あります。当然、これらの付帯設備を長い間使用すれば、調子が悪くなったり、故障したり、またメーカーの保証期間を経過することもよくあるものです。もちろん、使用可能な設備やメンテナンスが行き届いた設備が多いほど、そのマンションの価値は高く、売却価格にも反映されるものです。ですので、物件の魅力を最大限にアピールするために、中古マンションを売り出す際には、正常な付帯設備は漏れなく使用可能な設備として広告することが一般的になります。
こういった不具合箇所の全てを、完全な状態で引き渡すと売主の負担があまりにも大きなものとなります。
そこで「現況有姿」の出番になります。デリケートな付帯設備は売り出し期間中、故障してしまう可能性もあります。ですので、現に使用可能な設備を「現況有姿」の表記で表示します。修理や故障のリスクやコストを、売主が一方的に負担するのではなく、「現状の状態はこうですよ」と伝えることで、買主に正しく不動産の価値を理解して貰うことができるようになります。
02 契約書上の文言で「現況有姿」という表現を用いるのは避けるべき
万能にも思える「現況有姿」という言葉ですが、契約書上で使用する際には注意が必要です。というのも、「現況有姿」は法律用語としては非常に曖昧で、明確な定義もないからです。特に注意したいのは「現況で引き渡す」ということが、売主の「瑕疵担保責任を免責する」ことと同義ではないという点です。
仮に、契約書上で瑕疵担保責任を負わない特約を付すつもりで、「本件売買契約においては現況有姿で引き渡すものとする」と記載しても、真に期待した瑕疵担保責任の免責の効果を司法の場では得られない可能性が高いのです。
広く解釈したとしても、「契約締結後引き渡しまでの間に目的物に変動が生じても売主は引き渡し時の現状のままで引き渡せば足りる」という域を出ません。このことを法律的には「危険負担の問題」といいます。契約締結後の不可抗力等、債務者の責めに帰すべき事由によらず、債務が履行できなくなった場合の問題について、どちらがそのリスクを引き受けるのかということが問題になります。
結論としては、契約書上の文言として「現況有姿」という表現を用いるのは避けて、個別の状況についての取り決めを記載することをおすすめいたします。
03 法律論に終始せず、気持ちの良い取引のために
以上が、「現況有姿」で取引を行う場合のポイントです。契約は人と人とがするものです。「現況有姿の取引だから、買主のことは知ったことではない」という態度では、決して気持ちの良い取引は実現できません。法律論ばかりに終始せず、マナーとモラルを持って契約に臨みましょう。
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