民法改正「入居者の連帯保証人」

民法改正で「入居者の連帯保証人」はどう変わるか

01 際限ない「連帯保証人に請求」に「待った」がかかる

民法が改正されるが、実に「約120年ぶり」と話題になったことは記憶に新しい。
改正項目の中には、不動産オーナーにとっても関係の深い内容も。
今回の内容は「入居者の連帯保証人」だ。時には、入居者の滞納分家賃や原状回復費用などを連帯保証人に請求する場合もあるが、では、果たして連帯保証人にはどの程度請求することが可能なのだろうか。

 

02 そもそも賃貸借契約の連帯保証人とは

賃貸借契約における連帯保証人はどのような責任を負っているのか。
賃貸借契約から発生する債務不履行、損害賠償、原状回復などをすべて包括して保証することになります。
つまり、入居者が家賃を滞納したり、原状回復費用を払えなかったりする場合に、連帯保証人には入居者の代わりにその費用を支払う義務が生じるということです。
法律上、入居者と連帯保証人は同様の支払義務を負っているものの、実務的にはまずは入居者に請求し、入居者が支払えなかった場合に連帯保証人に支払いを求めることが多い。
こうした入居者による家賃の不払いなどがある場合、連帯保証人は原則としてオーナーの請求に対して異論を述べることができない。そのため、連帯保証人への請求は不払い家賃の回収のために有効な手段の1つです。

 

03 民法改正の影響は? 新設される「情報提供義務」

ただし、ここで注意したいのは、民法が120年ぶりに大きく改正されることだ。2020年4月に施行するこの改正民法では、連帯保証人に関しても大きな変更が予定されている。
その1つ目が、連帯保証人への情報提供義務が新設されたことだ。
このため、民法改正後に結ぶ連帯保証契約では連帯保証人から問い合わせがあった際には、オーナーは家賃滞納の状況や残額などについて、きちんと情報を提供しなくてはなりません
この定めは、個人の連帯保証人だけでなく、家賃保証会社からの請求に対しても有効です。

 

04 改正民放 458条の2 履行状況に関する情報提供義務

従来は連帯保証人が問い合わせても個人情報を理由に情報提供を断られるケースもあった。
ただし、これまでも、「連帯保証人への請求」として事実上の情報提供はなされてきた。
今回の改正ではこの情報提供について、きちんと明文化し定めた形となる。
滞納が長期化して、損害が拡大されてから連帯保証人に請求がなされ、その損害を連帯保証人が知らなかったために連帯保証債務があるかないかが争われるという事例が多くみられたことなどから、連帯保証人の保護を強く打ち出した格好だ。
これまでは請求によって情報提供がなされてきましたが、連帯保証人側もイニシアチブをとれるようになったということです。

 

05 大きな変更点の2つ目、「極度額の定め」

改正民法の2つ目の大きな変更点は、保証の極度額(保証の責任がある限度の額)を定める必要性があるということ。
「民法の改正後は、賃貸借契約の連帯保証に制限がかかります。
つまり、賃貸人と連帯保証人との間で『極度額』の定めをしなくては、連帯保証の効力が生じません」
これまでは、こうした定めは「貸金」にのみ定められていました。
しかし、今回の改正で賃貸借契約を含むすべての保証契約にこの制限が及ぶことになります。
こちらの改正も、情報提供義務の新設と同様、連帯保証人保護の流れをくむものとなっています。
なお、極度額の定めは「賃貸借契約書に連帯保証の内容がわかるように記載する形式でも、別に保証契約を定める形式でもどちらでも構いません」ただし、家賃額も把握できる賃貸借契約に同時に連帯保証契約の内容を併記するのがわかりやすく、一般的になりそうです。

 

06 「極度額」はいくら? 裁判例から探る

実際に不動産投資家はどの程度の金額に設定すべきなのか。
民法が改正された直後は、運用しながら事例を積み重ねていくことになります。
そのため、「現状では何とも言えない」のが実情。
それでも、「一般的な賃貸借契約の期間は2年間とする場合が多いので、『家賃の24カ月分(2年)』などとするのが合理的ではないでしょうか」
極度額を家賃の18~24カ月分と定めるのが相場なりそうです。
さらなる根拠として「国交省は今年3月、極度額に関する参考資料を公表しています」。
それによると、訴訟になっていないもので、連帯保証人が支払ったオーナー側の損害額の中間値は家賃の6カ月分前後。
また、訴訟になっているものでは家賃の13カ月強です。
「これらを考えれば、少なくとも中間値を上回るだけの極度額を定める必要があると考えられます」。
オーナーの立場からすれば、極度額の限度が大きい方が得であることは間違い有りません。
だが一方で、根拠なく極端に大きな金額を設定すればよいというわけにもいきません。
裁判で滞納家賃分を請求したところ、その全額の支払いが認められなかった例もあるからです。
まずは家賃額、原状回復費、損害賠償額などをすべて考慮に入れたうえで、常識に照らし合わせた極度額の定めが必要となってきます。

 

07 家賃保証会社の利用増

今回の極度額の定めは家賃保証会社には適用されません。
現時点でも、新規契約の7割以上が家賃保証会社による保証と言われています。
今後さらに人間関係が希薄化するかもしれませんし、極度額の定めがあることによって個人がその保証に応じにくくなるということも考えられます。
家賃保証会社の割合は高まる可能性があります。
国交省も今年、新たな賃貸借契約書のひな形として、従来の個人保証を前提としたものに加え、家賃保証会社による保証を前提としたものを提示しています。

 

08 「損害賠償」も連帯保証人に請求できる

連帯保証人に請求が可能なのは滞納家賃額だけでは有りません。
損害賠償や原状回復費についても、その保証の範囲に含まれています。
連帯保証の範囲をめぐって争われた訴訟もあります。
例えば入居者の自殺などがあった場合、損害を被った家賃の減額分などを連帯保証人に請求することは重要です。
改正民法の施行は2020年4月1日からです。
これ以降に結ぶ契約は、これまで説明してきた内容に沿う必要があります。
施行後に相場が形成されていくとは言え、過去の判例に学ぶことで不必要なトラブル、争いの回避は可能です。
法律は「少し遠い話だ」「自分には関係がない」というオーナー様も「法律は自分の生活と関係がないと思っていても、それを知らなかったことで思わぬ損をすることもあります。
法律改正の情報を仕入れ、備えることは重要です。
さらに、新設される制度によって、業界の状況が変わることもあり得るため、こういった情報にも目を光らせておいてください。